この話も書く前はSSになりそうだと思っていたのにな(^_^;)
今回はヨンとウンスの新婚編です。
描写に苦戦しましたが、おかしいところがあってもスルーしてくださる方のみお読みくださいませ。
典医寺からの帰り道。
冬の日暮れは早く、辺りは既に真っ暗だ。
冷たい空気を吸い込んで、吐いた息は白く見え、気温がぐっと下がっているのがよく分かる。
厳しい寒さの中でも、繋いだ手と心はあたたかい。
隣には大きくて頼もしい手の持ち主である最愛の夫、チェ・ヨンがいる。
家までの道のりを歩幅を合わせて並んで歩く。
(こういうの嬉しいな)
ウンスは笑みを浮かべて隣を見上げた。
視線に気付いたヨンは、ウンスの想いを察したのか優しく微笑み返した。
結婚して半年が過ぎても、ヨンの笑顔はウンスの胸をときめかせた。
私をソウルから高麗へ無理矢理連れ去ったサイコ。
あのチェ・ヨンがこんなに柔らかく笑う人だったなんて。
それを知っているのはきっと私だけね。
ヨンの眼差しからはいつでも誠実で深い愛情が伝わってくる。
それはウンスだけに向けられるものだ。
あなたに会えて良かった。
あなたのそばに戻ってこられて本当に良かった。
ヨンの笑顔を見つめて、ウンスは幸せをかみしめた。
そのとき、真冬の冷たい風がぴゅうっと吹き抜けた。
「寒いっ!」
ウンスは背中を丸めて、ぶるりと震える体を自ら抱きしめた。
厚めの生地で誂えた風除けを羽織っているが、それでも寒いものは寒い。
「高麗の人たちはこの寒さをよく耐えられるわね! 誰よ、こんな寒い日に歩いて帰ろうなんて言ったのは!」
「イムジャ・・・あなたです」
「そうよ、私よ! はぁ・・・、何であのときあんなことを言ってしまったのかしら・・・」
典医寺で務めを終えたウンスが帰り支度を始めたとき、ちょうどヨンが訪ねてきて一緒に帰宅することになった。
高麗を護る大護軍として多忙ではあるが、時間が合うときはこうして典医寺に迎えに来てくれている。
ここ最近、ヨンはゆっくりとした休みがとれておらず、二人で外出する機会が減っていた。
久しぶりに二人で外を歩きたい。
そう思ったウンスはヨンに提案してみたが、
「今日は一段と冷え込んでおるゆえ、馬で帰りましょう。俺の勘ですが、雪になるやも・・・」
というヨンの反対を押し切り、歩いて帰ることにしたのだった。
ウンスは涙目になりながら、そのときのことを激しく後悔した。
「私が悪かった。反省してる。あなたの言うことを聞くべきだったわ・・・ふぁっっっくしょん!」
いけない、くしゃみが。
体の内側まで寒さが入り込んできたみたいだ。
「イムジャ、大丈夫ですか?」
ヨンはウンスの顔をちらりと見て、懐から手拭いを取り出した。
「うん、大丈夫」
ウンスの鼻にヨンの手拭いが押し付けられる。
「じっとして」
ヨンは顔色一つ変えずに、優しく丁寧に鼻水を拭き取った。
「ありがとう」
鼻の頭を赤くしたウンスをヨンは可愛くてたまらないというような目で見つめて、手拭いを懐へ戻した。
この人って、私の世話をするのが好きなのかな?
こういうことを全然嫌がらないでさらっとやってくれるの。
恥ずかしいけど、ヨンは気にしてないみたいだから好きにさせてるけど・・・。
「まるで子供だな」
ヨンは喉でくくっと笑って呟いた。
「こ、子供?」
「俺は子供を娶ったつもりはありませぬが」
「もう、何よそれ。ひどいわ!」
「ほら。すぐむくれるところも」
膨らんだ頬をヨンの人差し指が突こうとしたとき、ひらひらと舞い降りた小さな氷の粒がウンスの頬に触れてとけた。
「冷たい!」
二人同時に空を見上げると、降り始めた白い雪が暗い空に舞っていた。
「雪だわ! あなたの勘って本当に凄いのね!」
瞳をきらきらと輝かせているウンスに、ヨンは目を細めた。
「怒ったり笑うたり。まことに忙しい人だな、イムジャは」
「さあ、早く帰りましょう! 雪を見たら何だかますます寒くなってきたわ」
ウンスはヨンの手を引いて、早足で歩き出した。
しんしんと降り積もる雪は、容赦なくウンスの体温を奪っていく。
「ねえ、まだ着かないの? お屋敷はこんなに遠かったかしら?」
歩きながらあまりの寒さにがたがたと震えるウンスの体。
「もう見えております。しばしご辛抱を」
ヨンは自分の風除けを脱いでウンスの肩にかけた。
「ああ駄目よ、そんなことしたらあなたが風邪を引いちゃうわ」
「しかし・・・」
このままだと寒くて凍え死んでしまいそうだ。
早く家に帰ってあたたまりたい。
早く・・・あたたまる・・・。
そう考えたとき、一つの名案が閃いた。
あたたまる・・・というよりは熱くなる感じかな?
きっと一分一秒でも早く帰りたくなるはずよ。
半分冗談、半分本気。
さてこの人はどういう反応をするかしら?
ウンスは心の中でにやにやと笑った。
肩にかけられた大きくてあたたかな風除けをヨンに羽織らせて、
(よし!)
ウンスは勢いよくヨンの腕に抱きついた。
「ねえヨン。寒くてたまらないの。早くお屋敷に戻ってあたたまりましょう」
ヨンはぎょっとしてウンスから離れようとした。
「それならば腕を放して、さっさと歩いてください」
いやいやと頭を振ってヨンの腕をぐいっと引っぱり、耳元で囁いた。
「今夜も、私を熱くしてくれるのよね?」
ヨンはぴたりと足を止めて、ごくりと喉を鳴らした。
ウンスは限りなく甘い声で囁き続ける。
「証明してあげるわ。私が子供なんかじゃないってこと」
ヨンは大きく目を見開いて硬直した。
その脳裏に浮かび上がったものは何なのか。
「ねえ、早く帰ろう?」
ひんやりとした手でヨンの手を握ると、先程よりもあたたかさが増していた。
「イムジャ・・・。あなたという人は・・・」
ヨンはそう言って、熱のこもった眼差しでウンスを見つめた。
(ほらね、思った通りよ)
「それじゃあ・・・」と一歩踏み出した瞬間、ウンスの両足は地上から離れて宙に浮いた。
「きゃあ!」
思わず瞑ってしまった目をそうっと開けると、ヨンの逞しい腕がウンスを横抱きに抱えていた。
「しっかり俺に掴まっていてください」
ヨンは大事そうにウンスを抱えて、全速力で駆け出した。
「ふふっ! 早ーい!」
ヨンに抱えられたまま、両腕を思いきり伸ばしてみる。
掌に当たる冷たい風が、今はとても気持ちが良い。
「まるでジェットコースターみたいだわ!」
ウンスは満面の笑みを浮かべて、膝から下を少し揺らした。
「イムジャ! 暴れると落ちますよ!」
口ではそう言いつつも、ヨンの顔は笑っている。
「大丈夫よ! あなたは絶対に私を落としたりしないってこと分かってるんだから!」
「勿論。イムジャには傷の一つも付けませぬ」
笑顔で見つめ合う二人。
ウンスがヨンの首に腕を回すと、ヨンは駆ける速度をさらに上げた。
***
背負ってくれるかなって期待してたけど、これも楽でいいわ!
時々この手、使えるかも!
***
寒さのせいにして、俺を誘ったのはイムジャだ。
寝所もかなり冷えているだろう。
熱くなり過ぎようとも、今宵は少しも離さぬゆえ、お覚悟を。
***
屋敷まで、あと少し。
読んでくださり、ありがとうございました。
漸くこの話まで書けました。
「急患」、「切望」、「こんな日は・・・」
この三つの話を、「もう我慢できない!三部作」と自分で勝手に名付けていたんです(笑)
ここまでこれたら、ずっとお預け状態だった二人の為に、この先の話を久しぶりに書いてみようかと思ってました(*´∀`)
先日、ちょっとだけ書いたアレです(*´艸`)
また長くなりそうな予感がするし、今度は全部書けてからUPしたいので、時間がかかると思います。
それまで気長にお待ちくださいね♪
Category - シンイ妄想